忘れ去られた人々の思いが、トランプ大統領を誕生させた ―以前訪れた「Rust Belt」に思う
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トランプ大統領を選任した人々
ドナルド・トランプ大統領が就任して2カ月が経過したが、Twitterでのイレギュラーな発言やマスコミとの対立、さらには政権中枢部の人事をめぐる紆余曲折など、ハプニングが連続している。有権者の支持・不支持の割合も拮抗しており、長期安定政権とは言いがたい状況で、型破りなトランプ大統領の“改革”が米国にとって吉となるか凶となるかは、「就任後100日を見なければわからない」という見方になっている。
その要因も重なって、政治状況とは裏腹に米国経済はここにきて絶好調が続いており、株価が2万ドルの大台を突破するなど、マクロ経済は順調に推移している。「米国精神の再生」を目指し、内政や経済、外交安保の各分野の政策を進めるための協力と団結を内外に訴えた2月28日の上下院での一般教書演説では、歴史的な税制改革とインフラ投資に取り組む決意を改めて表明するなど、概して多くの米国民が大統領就任当時とはちがった評価を行う傾向が現れている。
トランプ大統領を誕生させたのは「Rust Belt(ラストベルト)」(錆の帯)と呼ばれる地域に暮らす低・中所得の白人層といわれている。ラストベルトは、自動車の町、デトロイトがあるミシガン州、5大湖のひとつ、エリー湖があるオハイオ州、さらには鉄の町、ピッツバーグがあるペンシルバニア州の一帯を指している。この地域は鉄鋼・石炭・自動車産業など、かつての「偉大なアメリカ」を支えてきた地域だ。その後こうした産業の製造の外部委託や多角化が進み、多くの人たちはこの土地での将来展望が描けず、都会へ去っていった。トランプ大統領はこうした忘れ去られた低・中所得の白人層に「America First」を訴え続けることで、大統領に選任された。産業の栄枯盛衰の中で、まさしく忘れ去られようとしていた“オールドインダストリー”―そこで働いていたブルーカラーの白人労働者層が自分たちのために立ち上がったというべきなのかもしれない。
他山の石とする
トランプ大統領のこれからに注目すると同時に、こうした事象を“他山の石”として、日本の産業政策においても十分な考察と配慮が必要だ。
日本でも産業発展の歴史の中で、地域経済の栄枯盛衰は枚挙に暇がないほどに事例がある。かつて石炭の採掘で栄えた九州の筑豊や、北海道の夕張などは今では“ボタ山”を除けば、その面影すら残っていない。「黒いダイヤ」といわれた石炭が最盛期の頃に栄えた人工の島「軍艦島」は、今では歴史的な記念物になってしまった。
さいわい、筑豊は石炭に変わって自動車や半導体などの新産業が立ち上がったことで、産業の構造改革ができ、雇用が確保され、離職者の受け皿にも困ることはなかった。しかし、北海道の夕張地方は新産業の誘致も十分ではなかったため人口は大きく減少、住民は働き口のある地域へ転出していった。日本は国土も狭く、人口の流動性もあるので産業基盤が大きく変化したとしても、国民に変化対応力が備わっていた。しかし、国土の広い米国では難しい問題だ。
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